

『週刊ポスト』掲載の「修学旅行リターンズ」、お楽しみいただいたことと思います。でも、修学旅行生・北尾トロが書ききれなかったエピソードは、まだまだあるのです。言ってみれば「修学旅行リターンズ裏話」。どうぞじっくりお読みください。
![[episode 1] 再びの修学旅行、その秘策とは?](imgs/01_ttl.gif)

バスにはちゃんと名札あり。盛り上がるなあ

旅館の玄関でまずパチリ。さあ出発だ!

今回のプランは昔も今も変わらぬ修学旅行のメッカ、奈良と京都を2泊3日で訪ねるプランだ。いずれ劣らぬ大観光地だけに、修学旅行以後も足を運んでいる人が多いだろう。『週刊ポスト』で応募された多数の希望者から選ばれた佐藤さんご一家とて事情は同じ。リターンズの面々としては、そこを踏まえ、いまだからこそ楽しめる内容に練り上げる必要があった。
旅の案内人は引率役のヒラカツこと平野勝敏、記録係の中川カンゴロー、そしてワタクシ、北尾トロ。1970年代に隆盛を誇った全国の大観光地をあらかた巡り、なかでも奈良と京都は念入りに、春と秋の二度も出かけた3人だが、現在60代の佐藤さんは人生の大先輩。しかも夫婦+愛娘での参加とあっては失敗は許されない。我々がしてきたような無理のあるスケジュール(時間が足りなければスルーして先へ進む)は避けたいところだ。また、修学旅行以後に訪れたことがあったとしても、47年の時を遡り、気分は高校生に戻っていただきたい。
大人の味わいをしつつ、新鮮な気分で旅を楽しむ。ポイントはここだが、ヒラカツだけで旅程を作成するのは荷が重い。『週刊ポスト』からもリターンズ2名の参加が決まり、大所帯にもなっている。そこで、修学旅行のプロ集団である東日観光にサポートを依頼し、秘策を練ることになった。
その結果、決まった方針はこうだ。
"基本を外さず、量より質を重視し、サプライズを盛り込む"
基本とは何か。まず、団体旅行にはつきものの、バスでの移動。これにはもちろんバスガイドさんがつく。どちらかというとバスガイドさん目当てという感じもあるが(笑)。次に宿。これはオシャレなシティホテルや豪華な旅館ではなく、修学旅行を長年手がけている業界の老舗を選ぶ。コースは定番観光地の中から厳選し、集合写真を忘れずに撮る。また、観光時間はあらかじめ決め、気に入ったからダラダラ居続けるとか、疲れたからパス、なんてことは許されない。
質の重視は観光ポイントはもちろん、とくに食で発揮される。何を食べてもご馳走だった高校時代と比べたら舌も肥えているからだ。そのため、奈良では昼食に自然食系の店、京都では湯豆腐を用意することにした。夕食は初日が全員で、2日目は佐藤さん一家水入らずの宴とし、メリハリをつける。
そして、サプライズは、単なる観光ツアーではあり得ない独自のサービスを計画。奈良公園でのプロガイド同行、京都の三十三間堂における弓師への面会と工房訪問を盛り込んでみた。
さて、ヒラカツと東日観光が練り上げた修学旅行リターンズの結果はいかに!?
![[episode 2] プロの意地が一団を盛り上げる](imgs/02_ttl.gif)

家族で参加の“修学旅行生”、佐藤さん一家

奈良での記念撮影は鹿といっしょがお約束

好奇心をくすぐる話が巧みだったガイドさん
奈良観光では春日大社からスタートし、東大寺の法華堂(三月堂)・二月堂、大仏殿、興福寺をまわった。一般的な修学旅行では大仏殿から入り、逆コースで春日大社を見てから興福寺に行くのだが、どうしても駆け足になりがちな春日大社に時間を割いた。朝の澄んだ空気のなか、プロガイド氏のはからいで、東回廊から中門、御廊とじっくり見ていく。見事に連なる灯籠が圧巻だ。
続いては三月堂。ここでは事前にお願いしていた寺の人が、由来などを説明してくれたのだが、これが実にいい。少し歴史や仏像に興味があれば、いかに三月堂にある仏像たちが貴重なのかがわかり、有り難みが倍増するのだ。もちろん、日光・月光菩薩にも気持ちが癒され、いつまでも見ていたい気持ちにさせられる。ここの良さは高校生にわかれといっても無理かもしれない。
が、ここで移動。大仏殿でも大仏に見惚れてしまうが、もう少しいたいタイミングで集合の合図がかかるため、絶対またこようという気持ちになる。最後、調子に乗って大仏の鼻の孔と同じサイズだという柱の穴をくぐり、別れを告げた。
「はい、じゃあ記念写真を撮りまーす。鹿を呼びましょう。皆さんピシッと背筋を伸ばして下さい!」
カンゴローがカメラを構え、鹿が寄ってきたところで素早くシャッターを押す。これこれ、これがなくちゃあ修学旅行とは言えない。
昼食後は雨の唐招提寺を見学し、宇治の平等院へ。ますます強まる雨足の中、根性で阿弥陀如来を見に行った。もちろん濡れる。靴の中までびしょびしょである。しかし、豪雨の中を一歩も引かず、大声で説明するバスガイドさんの迫力に佐藤さん一家からも、週刊ポストのふたりからも一切の弱気発言は出ない。それどころか「こんなの初めてだ。一生忘れられない」と喜んでいるくらいだ。ぼくやヒラカツ、カンゴローも同じ。いい歳をした大人が修学旅行する楽しさが凝縮された一幕だった。
バスガイドさんはこの場面、さすがに迷ったのだそうだ。
「普通なら様子を見て引き上げるところですよね。でも、修学旅行リターンズの皆さんですから強行突破させていただきました。私自身、張り切っているというのもあります。だから絶対に、平等院の良さをわかってもらいたかった」
実際の修学旅行ではどうしても高校生向きの話題になるし、それでも聞いてもらえない。一般の団体旅行なら聞いてもらえるが、参加者の興味がバラバラだからテーマを絞りにくい。その点、今回は聞く気マンマンの上、かつてわからなかった建造物や仏像の価値を知りたい人たちをガイドしている。この人たちを楽しませられないようではプロ失格だと緊張していたらしい。
![[episode 3] 心に何かを刻み付ける旅](imgs/03_ttl.gif)

第二十一代の御弓師、柴田勘十郎さん

京都でも一軒だけという柴田さんの弓工房で

どこでも聞き逃せない話ばかり。ペンも走る

見てください、この笑顔! ああ、楽しかった

旅の最後はやっぱり集合写真。ハイ、チーズ!
京都では夕食をゆっくりとり、佐藤さん一家に水入らずの一夜を過ごしてもらった。週刊ポスト組と我々も座敷でのんびり杯を交わし、雑談に花を咲かせる。途中、ちょうどこの日が誕生日だったメンバーにバースデーケーキが届けられる演出もあり、なんだかアットホームな、普段ありそうでなかなかない宴になった。宿を抜け出し、飲みに行くのはカンタン。カラオケだって悪くない。でもせっかく修学旅行に来たのなら、こういう過ごし方もいいと思う。
「これ、ヒラカツのアイデア?」
「いえ、東日観光さんの手配です。名前入りケーキというのがさすがプロです」
翌朝、ロビーで集合した佐藤さん一家の表情にも、親子で楽しい一夜を過ごした満足感がうかがえる。
「おかげさまで、の〜んびりできました。娘が子供の頃はどこでも一緒に連れて行ったものだけど、だんだんとそういう機会も減ってきますもんね」
三十三間堂の見学、弓師の貴重な話や工房で弓を触らせてもらったこと、京都随一の観光スポット、清水寺探訪。すみやかに予定を消化し、湯豆腐を食べにゆく。ビールがうまい、豆腐がおいしい、そして何より雰囲気がいい。京都にいるなあ、という感じがする。
奈良で行ったところもそうだが、今回の訪問地は皆それぞれ、これまでの人生で訪れたところばかりである。こんな風景は見たことがないとか、この味は人生初、というようなものはない。ここは日本だし、大観光地だし、ハプニングもそうそう起こらない。海外旅行と違い、常に緊張しながら行動を共にしてきたわけでもない。安心で安全な旅である。
でも、だからといって、仲間内で適当に集まって、幹事さんの手配のもとに出かける旅とも違う。ゆるいながらも、そこにはルールがあり、見聞を広めたいという意識がある。で、いい歳になっている分、臨めばそれが叶う。積み重なってきた歴史の意味が、そういうことかと理解できる。だから、一度きたところであっても楽しい。いや、再訪だからこそ、かつての自分と比較することができてもっと楽しさが深くなる。
何度来ても、見るだけで心が洗われるような日光・月光菩薩の前に佇んだひととき。豪雨の庭で笑いを押さえ切れなかった平等院。弓師が数十年前に放った矢がいまも突き刺さったままの三十三間堂のひさし。佐藤さんの娘さんが奥さんをいたわりながら歩く姿ににじみ出る強い絆。清水の坂で急に振り返り、それまで風景ばかり撮っていた佐藤さんがついに家族にレンズを向けた瞬間。やはりそれらは、ぼくの心に何かを刻み付ける、日常生活では得難い光景なのだ。
飛行機で札幌に戻る佐藤さんたちと、京都駅で笑顔で別れた。
「いい旅でしたねぇ」
誰からともなく感想がもれる。あれが凄かったとか美しかったとか、そういう話ではなく、たった一言、いい旅。何よりの褒め言葉を聞き、ヒラカツに安堵の表情が浮かんだ。カンゴローが頷いて言う。


かつて行った修学旅行。思い出すのは旅館での枕投げや先生に怒鳴られたことばかり。十代の多感な年頃に数々の名所を訪れたのに、記憶は曖昧。ぼくらは修学旅行でいいところを見せてもらったに違いないのに…。
だったら、もいちど謙虚な気持ちで日本の名所を味わいたいじゃないか。知っているようで知らない素晴らしさを、あらためて大人の目で見にゆくんだ。
振り返れば、修学旅行で訪れたというだけの理由で、観光地を敬遠していなかっただろうか。
たとえば、松島。子どもだったから、そのよさがわからなかったのでは? 人生の酸いも甘いも噛み分けた今なら、松尾芭蕉の感嘆した気持ちを理解できると思う。
修学旅行は観光旅行の王道だった、と気づいた今だからこそ再訪したい。30年後の修学旅行だ。30年という時間の経過が、モノや景色を見る目を養ってきたはず。よいものはよいという目で、再度、正面から名所と向き合おう。若かりし頃の気持ちに戻る瞬間もあるだろう。かすかに汗のにおいもするだろう。
さあ、出発しよう。
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高校生にわかるまい!これが本当の修学旅行。
北は北海道から南は九州、そして韓国まで、国内の観光名所42箇所+韓国を、生徒役の著者、引率役のライター、記録係のカメラマンの「オヤジ3人」が旅する姿を、軽妙な文章と写真で紹介する紀行エッセイ。